喜心・老心・大心

ちょっと興味が出て、精進料理の本を買って読んでみた。

永平寺の精進料理 七六〇年受け継がれた健康の智慧を家庭でいただく

永平寺の精進料理 七六〇年受け継がれた健康の智慧を家庭でいただく

福井県にある曹洞宗大本山永平寺の監修による本。
前半は、禅の修業や、寺での生活について、後半は家庭で作れる精進料理のレシピについて、という構成になっている。

禅の修業というのは座禅を組むことだと思っていたのだが、そうではなく、料理や掃除といった日常の作務のすべてが修行なのだそうだ。特に食をつかさどる「典座」は、重要な仕事で、料理に際して、3つの心構え(三心)を忘れてはならないのだそうだ。

三心とは、喜心・老心・大心3つ。

  • 喜心とは、自分が典座の役割を頂き、料理をできることに喜びを感じること、
  • 老心とは、相手の身になって、どうしたら美味しく、見栄えがよくなるか、工夫して調理すること、
  • 大心とは、ささいなことで心惑わされず初心を忘れず、常に向上心を持って料理に取り組むこと

とても奥深い。公称仏教徒のくせに仏教には一向になじみのない私だが、こういう気持ちは大事だと素直に思える。料理ばかりでなく、日ごろの仕事のすべてに適用できそう...。こういう精神が日本の文化の中に脈々と根付いてきたのかもしれないなあ。


仏教で、この些細な作務を大事にする考えは最初は日本では軽視されていたらしい。が、道元禅師が修業のために中国に渡ったときに、当地の寺で典座を務めている老僧が、食事の支度を大切な修行として重要視していたことが、その後の日本の禅寺での規範に影響を及ぼしたのだそうだ。仏教が発生したインドでは作務は軽視されており、その後の中国で発展した傾向だそうな。そう聞くと、それってことさら食を大切にする中国文化の影響じゃないの、と勘ぐってしまうが...


レシピのほうは、シンプルで馴染み深いものから、ちょっと凝った料理までいろいろ紹介されている。どれもとても美味しそうで、あまり質素で寂しい食事という感じはしない。レンコンと豆腐のハンバーグとか、なすのソテーのごまクリームソースかけ、なんてオサレな料理もある。数日前にとりあえず、肉じゃがの肉のかわりに切干大根を入れて煮るというのをやってみたが、切干大根の甘みと歯ごたえが芋を補完して、美味しかった。

とりあえず今年は、仕事が嫌になったら「喜心・老心・大心」を思い出したいと思います...