ザクセンのスイス

一年ほど前に出張でドレスデンに行った際に、空いた時間に近郊を歩き回った。日記に書こう書こうと思いつつ気がついたら一年も経ってしまった。いまさらだけど、旅の記録として書いてみたい。

(なお、記憶を頼りに書いているため、地名や道順については誤りがある可能性があるので、旅の参考にされる場合、ガイドブックなどで検証して頂くことをお勧めします。)


ザクセンのスイス (Sachsische Schweiz)、と呼ばれる土地がある。ドイツ南東のザクセン地方にあるドレスデンの郊外で、本場のスイスとは関係ないが山が多い地形からスイスの名がついている。風光明媚な土地であるというので行きたいと思い立ったはいいが、なかなか情報が少なくてプランを立てるのに苦労した。ツーリストインフォメーションに行って情報尾をくださいとお願いしたら、ドイツ語の立派なガイドブックをくれたが、あいにくドイツ語はほとんど読めない。ガイドブックの地図も印刷が悪くてやたらとわかりづらい。そして、ドレスデン旧東ドイツ圏なので、英語の情報は少ないのであった。

辞書を片手にドイツ語のガイドブックを解読したところ、ザクセンのスイスと呼ばれる地方にはいくつかの見所ポイントとなる村や砦跡が散在しているらしい。今回の旅ではその中で比較的アクセスしやすい(と思われる)、エルベ川沿いの2つの場所に行ってみた。

バスタイ (Bastei)

Bastei は奇岩の景勝地で、細長く立った岩の上に中世の砦や、石でできた古い橋がある。小高い山の上なのでハイキング気分で散策するのにとてもいいところだと思う。戦災の傷跡生々しい Dresden を離れると、のどかなドイツの田舎の風景が広がっており、ほっとする。

ザクセンから電車に小一時間ばかり乗って、Kurort Rathen という駅で降りる (件のガイドブック上の地図ではこの駅名が判読できず、降りる駅を突き止めるのに非常に苦労したことは特筆しておきたい)。

(Kurort Rathen の駅前にあった地図。ガイドブックより格段にわかりやすかった)

駅から少し歩いて川に降りたところにある渡し舟で向こう岸に渡ると、小さなかわいらしい村がある。


(渡し舟の船着場)


(Rathenの村)

エルベ川に大して垂直な村のメインストリートをしばし歩いていくと、適当なところで左に曲がる道があり、Bastei の砦に向かうハイキングルートとなっている。しばし舗装された道路を行くが、途中に "Nach der Bastei" と書かれた分かれ道があって、山道のようになっているその道を登っていった。だんだん周囲の景色が山中っぽくなり、巨岩・奇岩に囲まれた楽しいルートになっていく。


(分かれ道)


(奇岩に囲まれた道)

しばらく歩くと、突如視界がひらけた。山の上に出たのだ。すぐ川沿いのところなので、先ほど乗った渡し舟の船着場がよく見えた。


(山の上から船着場をのぞむ)

そのまま道沿いにしばらく行くと、砦跡がある。岩山が侵食されて、背の高い柱のような岩が沢山立っている、その上にある中世の砦である。現在は岩と岩の間は丈夫な鉄の橋で結んであって歩き回れるが、足を踏み外せば切り立った谷底に落ちていくことになるような地形で、高所恐怖症の私はつくづくこの砦を守る兵士でなくて良かったと胸をなでおろしたのであった。


(Bastei 砦)


(Bastei 砦の全体像の模型)

砦から、Bastei Brucke (バスタイ橋)が良く見える。岩山を利用して作った美しい石の橋だ。こんなところによく橋を作ったもんだと感心してしまう。


(Bastei Brucke)

橋を超えて歩くと、ホテルや休憩所がある。ホテルの裏にバス停もあり、そこから別の町にも行けそうだった(Bastei のバス停だと一人でウケていたのは私だ)。私はバスには乗らず、そこから右折して山の裏側を通ってRathenに戻るハイキングコースをずっと歩いていった。深い谷を挟んだこちら側も奇岩上になっており、樹木や奇岩に囲まれた道の途中にときおり view point があって、今まで通ってきた砦や Bastei Brucke を見ることができる。Bastei の砦は反対側から見ると頼りないような岩の上にあって、やっぱり怖い。


(Basteiの砦を反対側の山から見たところ。山の上に赤い点が見えるのは、砦の上にいる観光客の群れ。右手に人工的な石を積んだ構造が見えるのはバスタイ橋の一部)

山を降りきったあたりに小さな滝があった。小屋があってくつろいでる人もいた。


(滝)

ケーニヒシュタイン (Koenighstein)

Rathenに戻って川岸にくると、ちょうどエルベ川の観光船が船着場に来ていたので、これに飛び乗って、Koenighstein という古い砦のある町へ向かった。途中、ボートで水遊びしているひともいた。
途中の川岸には、ドイツ特有の、薄目を開けたようなちょっと奇妙な窓のついた屋根をもつ建物が沢山建っていて、線路や電線がなければ童話の世界みたい。


(川沿いの教会や家々)

船の上から、Koenighstein の砦が見えた。Bastei に比べて大きくて立派な砦で、見るからに難攻不落といった感じの城壁に囲まれている。


(Koenighstein)

Koenighstein の駅前から、Festung Express という観光バスに10分ほど乗って砦へ。
下から見上げると、確かに難攻不落の城砦である。もともとは Bastei と同じような奇岩の地形だったのを、岩の間や上に石の壁を造って城壁にしたものらしい。岩と石の壁は数十メートルも高くそそり立っていて、とても登る気はしない。


(Koenighstein の城壁)

平和な時代に生まれたしあわせを噛みしめつつ、正面の門から城に入る。もっと噛みしめたければ、裏口からエレベータで一気に上ることもできる。


(砦の正門を上から見たところ)

重厚という言葉がしっくりくる石造りの城を抜けると、砦の上は広い土地になっている。古い城に手をいれつつ第一次・第二次世界大戦でも使われたらしく、わりと近代的に、立派な武器庫やら、砲台やらがひしめいていた。高いところにあるので、砦の上から見る景色は最高。

帰りは電車で一気にドレスデンに戻った。電車で、ケーニヒシュタインとドレスデンの間で一時間ほどの行程。バスタイとケーニヒシュタイン両方をたっぷり見て、ちょうど一日分の観光コースという感じだった。ドレスデンから船でバスタイやケーニヒシュタインに直接行くこともできるが、数時間かかるのでもっと時間に余裕が必要だと思う。