つぎはぎだらけの街 - ドレスデン
ドレスデンは、旧東ドイツの南端、ポーランドとチェコ共和国とも国境を接するザクセン州の州都である。その前をさかのぼるとザクセン王国の首都であり、とても歴史の古い街だ。そしてとても悲しい街だ。
街の中心を流れるエルベ川によって、街は北側の新市街と南側の旧市街に分断される。エルベ川両岸の景色は世界遺産にも登録されている、美しい町並みである。旧市街には美しい石造りの建物が多くあるが、どこか違和感を感じる。整然と積み上げられた石の壁や彫刻の中を良く見ると、黒く煤けたものと、見るからに新しい白く輝く石が混在した、白黒のモザイク模様になっているのである。
実はドレスデンの旧市街は1945年の爆撃によってほぼ破壊されつくされたのだ。近年になって破壊された建築物が多く復元された。このとき、現存する瓦礫から使えるピースを拾い出して、新しい石と組み合わせて建物を復元した。黒く煤けた石は、戦火に焼かれた石なのだ。オリジナルの石をもともと使われていた場所に当てはめるための最大限の努力がなされたということで、この復興作業はヨーロッパ最大のパズル、と呼ばれているそうである。
根気強いパズルの組み立てにより、多くの建物が往時の美しさを取り戻した。ツヴィンガー宮殿しかり、オペラ座「ゼンパーオーパー」しかり、聖母教会しかり。しかしその白黒のモザイクに満ちた建物を見上げるとき、人は1945年の爆撃に思いをはせるしかない。赤く燃える炎で埋め尽くされる街路、崩れ落ちる建物、空を覆う爆撃機の影．．．そんな見たことのあるはずもない情景がフラッシュバックする。
無用に過剰な私の想像力を刺激して、なんとなく悲しみに満ちたドレスデンの街なのであった。
それはそれとして、一通り市内の観光も楽しんだ私である。
聖母教会（Frauenkirche）は2005年に再建されたばかりである。この写真に写ってない裏側の一角に破壊を免れた部分があり、そこだけ極端に黒い。美術館に破壊された状態の聖母教会の写真があり、見ると確かに現在の黒い部分と一致することになんとなく感激する。
（裏から見たところ。黒い石は破壊される前の建材を利用したもの）
エルベ川に向かって建つカテドラル。建物を取り巻いて建っている聖人の像が黒く煤けているのが悲しさを誘う。
カテドラルの隣に建つのがドレスデン城である。この中に手工芸品の宝物間である 緑のドーム (Grunes Gewolbe) がある。ドレスデン城の一角にある「君主の行進」の壁は、奇跡的に戦火を免れてオリジナルが現存しているというもの。130mも続く美しいモザイクタイルの壁は圧巻。歴代の君主が行進しているという図なわけだが、それぞれの君主の持ち物やポーズに秘められた意味がありそう。
ツヴィンガー宮殿はアウグスト強王の建てた豪華な宮殿で、現在は内部にアルテマイスター美術館や陶磁器美術館など複数の美術館が入っている。アルテマイスター美術館はラファエロの有名な「システィーナの聖母」をはじめかなり見ごたえのあるコレクションがある。破壊される前のドレスデンの街を描いた絵画や写真も展示されており興味深い。
陶磁器美術館はドレスデンから20kmほど離れたところにあるマイセンの作品を多数展示している。写真は宮殿の時計台の部分で、時計はマイセンの陶磁器で出来ている。
宮殿の隣にあるゼンパーオーパー (Semper Opera) は新古典主義建築の代表作だそうで、内部も外部も美しい。内部を見るにはガイドつきのツアーもあるが、混んでいたので夜にオペラを見に行った。演目は蝶々夫人。ぽっこりした体型の蝶々さんやいかにもドイツ人っぽいスズキさんに少々戸惑うが、なかなか面白かった。
ブリュール (Bruhlsche Terrasse) のテラスはエルベ川沿い、ドレスデン城の手前に小高く作られた散歩道になっているところ。ここから見るエルベ川の景色は美しい。
エルベ川を越えて新市街側。新市街側は爆撃を受けなかったので、現存する建物は実は旧市街側より古い、という矛盾を示す街になっている。写真はアウグスト強王の金の像。影響力の強さをうかがわせる。
あと、見所としては、新市街の少し離れたところに「世界で一番美しい牛乳屋」としてギネスブックに載っているという、Molkerei Gebruder Pfunds という店がある。店内は撮影禁止で、撮ると怖いおねーさんにすごい勢いで怒られるらしいので写真はないが、ここ や お店のホームページで確認できる。チーズや乳製品のほかに、お土産用のチーズ入りクッキーなどをたくさん売っている。
また店内で軽食を出しており、グラス1杯1ユーロのミルクまたはバターミルクを飲むことができる。バターミルクはバターを取ったのこりのミルクということで、濃厚にすっぱくてちょっとヨーグルトっぽい味であった。
