那智山、伊勢路に鬼が城

那智山

今回の旅の目的の一つは熊野古道を自分の足で歩く、ということだったのだが、これは意外と難しいということが判明した。最初はエコに配慮して電車やバスという公共交通機関を使おうと思ったのだが、本数が少なすぎてあまり柔軟な行動ができない。あっさり宗旨替えして紀伊勝浦駅前でレンタカーを借りた。車があると安心してしまう、悪い癖である。

しかし車の場合は別の問題があって、古道を歩いた後にどうにかして車のある場所まで戻らなければならないのだ。仕方ないので古道の見所ポイントに車で行って、ちょっと歩いて、どうにかして戻る、というセコい作戦を実行することにした。

というわけで、熊野詣での2日目。本日は熊野三山のひとつ、那智山へ。那智山へ至る途中の古道の大門坂下の駐車場に車を止めて、古道を歩いて登る。杉の巨木の並木に縁取られたランダムな石畳が美しく苔むしていていい感じ。

大門坂。

大門坂入り口の夫婦杉。

暑い日で大汗をかきながら登り、世界遺産になってる神社や寺を見学した。
境内の楠の古木は根元が空洞になっている。護摩札に願いを書いてこの空洞をくぐる(胎内くぐり)すると願いがかなうというので、さっそく無病息災などと願いを書いた札を持ってくぐってみた。なんとなくご利益がありそうだ。

日本一の滝だという那智の滝は高さ133m。手前の三重塔のあたりからは、いかにも絵葉書になりそうな絶景を望む。那智の滝の滝つぼのところにも鳥居があり、参拝できる。ただし社殿はなく、那智の滝そのものが神体として祭られているのだ。滝の水は長寿の水だというので、杯を買って水を飲んだ。

三重塔と那智の滝

松本峠鬼ヶ城

歩いて駐車場まで戻り、今度は車で移動して40kmばかり北の伊勢路の海沿いのコースへ。大泊駅という無人の小さな駅に車を置いて、そこから数分アスファルトの路を歩くと古道への入り口がある。急な石の階段は湧き水で濡れて、大きな沢蟹が何匹も、私が近づくとびっくりしたように逃げていった。30分くらい石段と坂道を登り、松本峠という当時の難所へ。松本峠には数体の美しい苔むしたお地蔵様が静かに立っていた。

松本峠への道。

松本峠のお地蔵様。

そこから熊野市の方に坂を下りていくのが本来の古道のコースだが、路を折れて鬼ヶ城という海につきだした岩山の方へ行ってみた。途中の展望台からは、七里御浜の海岸線がとても綺麗に見える。余談だが七里御浜は砂浜ではなく、丸い小石の浜が堆積した浜なのである。そのせいか、綺麗な海岸なのに誰も海水浴している人がいなかった。

鬼ヶ城という岩山は何回も隆起を繰り返してそのたびに波に削られた岩山が複雑な奇景を呈している場所なのである。大きく削られた洞窟や、岩に洗われた荒々しい景観が続く遊歩道を小一時間ほどかかって散策。それぞれの奇岩や景観に名前が付いているのだが、切り立った崖のような場所は「猿戻り」。猿でもビビって渡れずに戻ってきてしまうというような意味だろうか? 猿戻りを越えた先に「犬戻り」というのもあり、猿戻りよりは若干厳しくないようだった。高所恐怖症で閉所恐怖症な上に泳げない私には、かなり精神的に厳しいもののある遊歩道だった。

鬼ヶ城の「猿戻り」。

「蜂の巣」(隆起の数だけ階段状に削れてる)

鬼ヶ城を抜けて、JR熊野駅にたどり着いた。こちらは大泊駅と違って周囲に人も住み商店街もある有人の駅。駅前でタクシーを拾って大泊駅まで戻った。(タクシーがいなかったらどうしようかとドキドキした)

車でまた紀伊勝浦方面に戻ることにして、途中で「花の窟(はなのいわや)神社」を見学。イザナミノミコトがカグツチノカミを産み落としたときに大やけどを負ってここで亡くなったのをおまつりしているのだという。神社には社殿がなくて、代わりに高さ50mもある巨岩がご神体だ。那智の滝といい、花の窟神社といい、熊野の神社は自然崇拝の傾向を残していて面白い。多分、これが本来の神道の姿なのではないだろうか。

海岸沿いの道から海に突き出ている「獅子岩」を眺める。よくもこういう複雑な形に削れたものだと感心する。

獅子岩