甕出し紹興酒と餃子パーティ

最近とみに紹興酒が好きである。最初は全部同じような味だと思って飲んでいたが、あちこちで飲んでいるうちに味に違いがあるのが分かるようになってきた。こってりとコクがあって甘みと旨みの濃いやつ、あっさりして辛口なやつ、つんつんとアルコールの刺激が残った熟成の足りないもの、など当たりはずれがある。何件かの中華料理屋では「甕出し紹興酒」といって、年季の入ったカメからお玉で汲み出した紹興酒をグラスやデキャンタに入れて出してくれるが、これはたいてい味がこなれていてとても美味しい。

一度あの甕出し紹興酒を甕ごと所有してみたいものだ、と狙っていたのだが、探すと通販で取り扱っている店が結構あるのである。引越しを機に自分へのご褒美として一カメ購入。一カメ9L入りで約8000円である。値段はピンキリでいろいろあったのだが、高いのから買ってしまうと安い方へは戻れない気がしたので、見つけた中でもっとも安い商品にしてみた。というより、通販で売ってるものは銘柄や年数すらちゃんと書かれていないものが多く、選択ポイントがよくわからなかったのである。

ついでに(?)引っ越し祝いを兼ねて友人達を呼んでパーティ。料理は、趣味と独断と偏見とお酒との相性により餃子がメインである。

前回の餃子パーティで1種類の餃子を100個も作ったら途中で飽きられてしまったので、今回は数種類食べ比べてもらうことにした。数冊の料理本を眺めつつ、メニュー決定。

  • スタンダードな肉あんにニラを入れた「ニラ焼き餃子」
  • スタンダードな肉あんに香菜を入れた「香菜焼き餃子」
  • 豚肉にエビとイカのみじん切りを混ぜて焼いた「三鮮餃子」
  • テンメンジャンと醤油でこってりした味をつけてネギを入れた肉あんを、両端を閉じない包み方で焼いた「鍋貼(ゴーティエ)」
  • さらに強力粉で皮を手作りしてニラ入りと香菜入りの水餃子2種

包丁を持つと人格の変わるアシスタント様に野菜のみじん切りをすべておまかせして、私は大量の豚肉を叩いたり調味料をまぜたりこねたり。水餃子の粉をこねたり、他の数種おつまみを作ったり炒め物の用意をしたりしていたら、それだけで2時間くらいかかってしまった。これほど真剣に料理したのは久しぶりでめまいを感じた。

疲れたので、到着した友人達に紹興酒のカメの開封をお願いする。カメの蓋の部分がぶあつい石膏で覆われて固定されており、この石膏をのこぎりで切断して、ノミで叩いて割るという大変な作業だった。石膏の蓋を取ると中には、ハスの葉でくるまれた陶器の小さい蓋が出てきた。この蓋をはずすしてもその下は油紙で何重にも覆われ、最後にハスの葉を取り除けるとやっとカメの口が見えた。大変に厳重なのである。

次にビールで乾杯して前菜をつつきながら、友人達に餃子を包んでもらう。普段はあまり料理などしない人も含まれていたが、大勢で飲みながらやると楽しいらしく、あーだこーだいいながら包みまくる。麺棒で皮を伸ばすところから始める水餃子は難関で、前衛的な形の作品がつぎつぎと出来上がる。でも水餃子は、皮さえちゃんと捏ねてあれば、あとは少々適当でもちゃんと美味しいからいいのだ。

やっとすべての餃子を包み終わり、さすらいの焼き餃子職人と化した友人達がホットプレートで次々餃子を焼いてくれるのを、ビールと紹興酒で次々と食べる。相当おなかが苦しくなっても、違う味付けのものが出てくると、ついついまた手が伸びる。というのを繰り返して、120個ほどもあった餃子はすべて無事に5人の胃袋に納まった。大満足...。
(友人を餃子でもてなすと招待しておきながら、よく考えると私がやったのは具を捏ねるだけで、包むのも焼くのも人にやらせているのだが、誰も気がついてないようなので良いことにする)

肝心の9Lで8000円の甕入り紹興酒は、陳年3年熟成ものだった。紹興酒の熟成としては長いほうではない。味はまずまずで、可もなく不可もなく、といったところだが、まあ安いし、なにより酒を湛えた甕が台所に鎮座ましましてると思うだけでなんとも心躍る気持ちがするので、良い買い物であった。