すし

南の島からお客人が来たので、かの地で食べられないようなものをということで、寿司屋に行った。

母のチョイスしたその寿司屋は、私も子供のころに何回か連れて行ってもらったことのあるお店なのだが、ずっとご無沙汰していて訪れたのはおおよそ四半世紀ぶりだった。まだ営業しているということ自体びっくりしたが、ご主人もおかみさんも(さすがに老けはしたが)元気で、なんとなく安心したのだった。

子供のころに行ったきりだが、その店の記憶はしっかりと刻まれている。それほど印象的だったのだ。ネタはどれもとても美味しいが、それ以上に印象的だったのがそのサイズ。いわゆる「野郎寿司」とでもいうのか、小さなシャリの上を巨大な魚の切り身が覆うスタイル。今で言うならお下品でシャリとネタのバランスがとれていないということなのかもしれないが、美味しいお魚をいっぱい食べて欲しいというお店の心意気が伝わってか、とても繁盛しているお店だった。

久々に行ったが、当時ほどではないが以前にサービス満点の盛のよさは健在で、ネタも美味しくてとても楽しめた。

自重に耐え切れず崩れ落ちるイクラ軍艦巻

うん、やっぱりインパクトは落ちたかな。昔はこぼれ落ちるイクラだけで小一時間は酒が飲めた...ような気がする。

ミソ入りの頭を添えてくれた車海老。子供のころに食べた海老の味がした。

圧巻は、「これはちょっと他所では食べられないよー」といって出してくれたトロ。

私は常々魚の脂を苦手にしており、マグロは赤身に限ると言い張っている人間なのである。
しかも、何を食べても「とろけるー」というコメントしか言えない芸能人のグルメ番組に冷ややかな視線を浴びせ続けていた人間なのである。

しかし、このトロをクチに入れたとき、数秒間の絶句した後、思わず相好を崩して
「とろけるー」
と言ってしまったのであった。

一見筋張って硬く脂っこそうに見える切り身なのに、口に入れた瞬間に脂がほろほろと崩壊し、まさに口のなかでとろけてしまったのだ。おなじマグロで何がこうまで違うのか、どういう条件がそろうとそういうことになるのか想像もつかないが、なんとも印象的な味だった。やられた。