そうだ、築地に行こう

年の瀬である。忘年会シーズンである。休みを取る人も多く、自分もあまっている有休も消化しなければならないこととて、なんとなく仕事自体が消化試合の様相を呈してきた今日この頃である。
「そうだ、築地に行こう」
午前中仕事をサボって、ではなくて半休にして築地に行って美味しいものを食べ、午後から充実した仕事をする。なんとはなしにそんなプランを思いついてしまったらもう止まらない。

いつもどおりに起きて朝食をとった後、さっそく地下鉄で築地へ。平日だというのに大きな観光バスが市場の正門前に横付けして、ウォーキングシューズにリュックサックを背負った、同じような格好をした初老の人々が大挙して市場に押し寄せていた。ツアーなんだろうか。

市場の中に、魚河岸横丁といって細長い建物が林立し、その中に小さな食堂が沢山ある。それぞれの店は非常にコンパクトで、ほとんどは1間ほどの間口でカウンター一列の店構えである。もとは市場で働く人々の食事の場所だったのだろうが、今はすっかり観光客のメッカだ。朝の10時だというのに、人気のすし屋の前には長蛇の人だかりが出来ていた。

午後イチの会議に間に合わせるためには朝の11時半の電車に乗らなければならない。えらく早い時間に昼食をとらなければならないが、幸いこの年齢にして異常なほどに頑健な私の食欲に問題はなかった。寿司にするか、定食系にするかちょっとだけ悩んだあと、以前から行ってみたかった「あんこう屋 高はし」なるお店へ。

注文は、これも数年前から食べてみたくてたまらなかった「あんこう煮」を定食で。連れはこれも名物らしい「あなご丼」を注文。そして刺身を一人前とってシェアすることにした。念願のあんこう煮は、やや小ぶりの丼にたっぷりと豆腐とアンコウの身がはいり、肝が溶け出した滋味深いものだった。思ったより薄味でやさしい味。皮や内臓やエラなど、あんこうの様々な部位が入っているのが嬉しい。あなご丼に乗っている煮あなごは、とろりふっくらと柔らかく、口の中に入れるととろけるほど。残念なのは、ちょっとあなごの量が少なめなところか...あなご倍量のスーパーあなご丼なるものもあるらしいので、次回はぜひ食べてみたいところ。お刺身はマグロにブリにホタテの貝柱で、見た目は地味だが大変に美味しかった。さすが築地! 全体的に安くはないが、美味しくて幸せな食事だった。次回はもっと早く来て、お寿司に挑戦かな。

食後は場外市場をうろうろして、煩悩に悩まされつつ帰ってきた。大好きな魚卵類とか、カキとか、東京の魚屋ではあまり売っていないセイコガニだとか、美味しそうなものが多すぎてほとんど直進できない。煩悩に耐えかねて北陸の名物「巻き鰤」を一本買ってきた。塩漬けにしたブリをワラでぐるぐる巻いた冬の保存食である。薄〜く切って酒の肴にすると、日本酒がいくらでも飲めてしまう、魔性の食べ物である。